ダイオードで0.7V以上で電流が流れ始める理由
Siのpn接合ダイオードで0.7V以上で電流が流れ始めるのは、pn接合の境界に0.7V程度の障壁(=\phi_i)があるからだ。
"電流が流れ始める電圧"=数A以上電流が流れる電圧
という意味で使っている。"電流が流れ始める"=0A以上電流が流れ始める、という意味ならば、pn接合ダイオードの順方向に0Vより少しでも大きい電圧を印加すれば、微小に電流が流れ始める。定義を明確にすることはとても大切だ。(数Aという定義はあいまいじゃないかと言われそうだが...)
また、同じダイオードでもショットキーダイオード、Ge、SiC, GaNなどSi以外のダイオード、PiNダイオードなどのことではない。今挙げたダイオードは電流が流れ始める電圧は0.7Vではない。
pn接合に流れる電流はほとんどの半導体の教科書に載っているように下記で表される。
変数の意味は下記の通りで、通常使う単位も参考に示した。
T = 絶対温度(K), q = 電気素量(C), k = ボルツマン定数(eV/K), V_a = 印加電圧(V),
n_i = 真性キャリア密度(cm^{-3}), N_a = p型半導体の不純物濃度(cm^{-3}),
N_d = n型半導体の不純物濃度(cm^{-3}),
D_p = ホールの拡散係数(cm^{2}s^{-1}), D_n = 電子の拡散係数(cm^{2}s^{-1}),
L_p = ホールの拡散長(\mu m), L_n = 電子の拡散長(\mu m)
J_T(V_a) =qn_i^{2}\left(\frac{D_p}{N_dL_p}+\frac{D_n}{N_aL_n}\right)\left(e^{\frac{qV_a}{kT}}-1\right) \tag{1}
この式には内蔵電位(=\phi_i)が登場していないので、式を少し変形する。
N_dN_a=n_i^{2}e^{\frac{q\phi_i}{kT}}なので(これもほとんどの半導体の教科書に載っている)、(1)式に代入すると
J_T(V_a) =qN_dN_ae^{-\frac{q\phi_i}{kT}} \left(\frac{D_p}{N_dL_p}+\frac{D_n}{N_aL_n}\right)\left(e^{\frac{qV_a}{kT}}-1\right) \tag{2}
少し整理して
J_T(V_a) =q\left(\frac{D_pN_a}{L_p}+\frac{D_nN_d}{L_n}\right)\left(e^{\frac{q(V_a- \phi_i)}{kT}}- e^{-\frac{q\phi_i}{kT}} \right) \tag{3}
となる。25℃ (=298K) であれば \frac{q}{kT}=38.96 V^{-1}程度なので、\phi_i=0.7 V程度とするとe^{-\frac{q\phi_i}{kT}}=1.4 \times 10^{-12} \approx 0なので下記のようになる。
J_T(V_a) =q\left(\frac{D_pN_a}{L_p}+\frac{D_nN_d}{L_n}\right)e^{\frac{q(V_a- \phi_i)}{kT}} \tag{4}
(4)式を見ると、印加電圧 (=V_a)が \phi_i=0.7 V を超えるとe^{\frac{q(V_a- \phi_i)}{kT}}が1より大きくなり、
電流が一気に増加していくのがわかる。(1)式で書かれている教科書が多く、パッと見ただけだと、 障壁(=\phi_i) を超えたから電流が流れ始めたというのが理解できなかった。(3)、(4)式だと少しわかりやすくなった。と思うのは私だけか...
なぜ Siの場合、\phi_i が0.7Vという数字なのかというと、 n_iがSi固有の値で決まっているからだ。 N_a 、N_dをpn接合ダイオードとして動作する範囲(10^{15}~10^{18}cm^{-3}くらい)で設定すると0.6 V~1 Vくらいの\phi_iになる(\phi_i= \frac{kT}{q}ln \frac{N_aN_d}{n_i^2} と表されるので、計算してみるとよい。)物質が変われば n_iも変わるので、pn接合の \phi_i も0.7 Vとは違う値になる。