MOS界面の反転層ができるまで1
MOS界面の反転層ができるまでの電荷の状態をまとめておく。
Siのp型半導体に酸化膜と金属の電極を形成した場合を考える。
電圧を印加したときにMOS界面の反転層が形成される様子を次の4つに分けて説明する。
0. 電極も半導体も0Vの状態
1. 電極側に+、半導体側に-電圧を印加した状態(空乏化が進展中)
2. 電極側に+、半導体側に-電圧 を印加した状態(空乏化が止まり、反転層が形成)
3. 電極側に+、半導体側に-電圧 を印加した状態(反転層の電荷が増加)
各状態を詳細に説明する。
0. 電圧を印加していない状態
電極の方が電子が多く、p型半導体の方がホールが多い。このため、MOS構造を作ると電極側の電子p型半導体に移動する。その結果酸化膜の電極側とp型半導体側の界面がそれぞれ帯電し、酸化膜間に電界が生じる。(フェルミエネルギーを使って表現すれば、MOS構造を作った瞬間は電極とp型半導体はフェルミエネルギーに差があるので、フェルミエネルギーが等しくなるまで電子が移動する。)
当たり前のように"キャリアが移動する"と書いたが、酸化膜は高いエネルギー障壁を持っているので、酸化膜を越えてキャリアが移動することはできない。実際は下記の図に示したように電極と半導体は何らかの配線でつながっており(今回は電極と半導体がともにGNDに接続して同電位と仮定)、その配線を通って平衡状態になるまでキャリアが移動する。(教科書やネットの記事などで平衡状態に達するまでの記載を見たことがないので私の推測ですが...)
平衡状態に達したときの電荷の分布と電界の分布は下記の通りである。金属(Al)の自由電子密度は約1022個/cm3で、p拡散層のホールの密度は多くとも約1020個/cm3以下であり、各段に電極の自由電子密度の方が多い。このため、電極側の電荷密度(+)はMOSの界面にデルタ関数的に発生する。対して、半導体側の電荷密度(-)はある程度の幅を持って空間が空乏化する。空乏化すると電界が発生するので電流が流れている気がするが、平衡状態で電流は流れていない。こちらの記事で説明したように電流は電界によるドリフト電流とキャリア密度(電荷密度ではない)の濃度勾配による拡散電流によって構成される。この二つ電流が釣り合っているため、平衡状態で電流は流れない。
1. 電極側に+、半導体側に-電圧を印加した状態(空乏化が進展中)
電圧を変化させると、一度平衡状態でなくなってからその電圧に対応した状態に落ち着く(熱平衡状態ではない)。電界分布と電荷分布は上記 0. 電圧を印加していない状態 で示したものと類似し、面積だけが大きくなる。
p型半導体が空乏化し、アクセプターが負の空間電荷を作っている。このときアクセプターの電荷に比べると微小な電荷量であるが、電子も半導体と絶縁膜の界面に集まってきている。(半導体と絶縁膜の界面のバンドは曲がっているが、フェルミエネルギーは伝導体のエネルギー\(E_C\) から離れているので界面の電子密度は小さい。)下記に具体的な数値を用いて空間電荷密度を計算した結果を示した。(※単位電荷\(q\)で割って規格化している点に注意。)p型半導体の不純物濃度を1016個/cm3、酸化膜厚を100nm、印加電圧(\(V_A\) )1Vとして計算すると界面の電子密度は1.48×1014個/cm3である。(具体的な計算方法については別途説明予定。)
2. 電極側に+、半導体側に-電圧 を印加した状態(空乏化が止まり、反転層が形成)は次の記事に続く。
参考にした文献
特になし。自分の経験をもとに作成。